「複眼の映像」アプローチによる感情解析プロジェクト

年末からある大手行のプロジェクトで、コールセンターのオペレータや顧客の音声データからとった感情データを分析し、営業改革に役立てる機会に係ることになった。

主に新福がデータ分析を行い、営業生産性改善の意味合いを抽出する。私は、コンサルティングの経験やその銀行についての長年にわたる関係から、新福の言わんとするところを引き出し、具体化していく役割を担っている。このプロジェクトは主に2人で推進している。

が、ここに一條が加わる。彼は、クライアントとの定期ミーティングにしか出 ない。あとは、私たちがつくっていく資料を読んで、コメントをするだけだ。しかし、そのコメントこそ、厳しくも示唆に富んだものであり、大いに役立っている。

実は、黒澤明の傑作、「七人の侍」も同様のアプローチで脚本が練られていった。脚本を執筆したのは、主に2人。黒澤明と橋本忍である。橋本は名だたる脚本家であり、代表作に「羅生門」や「生きる」などの黒澤作品、自身が監督をした「私は貝になりたい」、私が中学生の頃のヒット作「八甲田山」などがある。

この2人が「七人の侍」を執筆し、温泉旅館に籠り、こたつで原稿をやりとりしながら原稿を書き上げていく。その場には実はもうひとりの有名脚本家、小国英雄がいた。小国は、何も書かない。ただ、黒澤と橋本が書く原稿を読んで、「いい」とか「ダメ」とかいうだけだった。それでも彼の名前が「七人の侍」の脚本家としてクレジットされているのは、その役割が大きかったからだ。

橋本忍が黒澤明の映画づくりについて執筆した著作「複眼の映像」に、このときのことが詳しく書かれている。黒澤と橋本は自ら脚本を執筆しているために、どうしてもその原稿を客観視することができない。自分が書いた原稿は、よいと思うからそう書いたのであって、ダメだと思って書いているわけではない。一方、小国は何も書いていないので、冷徹にその原稿の品質を評価できる。黒澤と橋本からすると、これほど辛いアプローチはないが、脚本の品質をあげるために、これほど効果的なアプローチもない。

私たちがプロジェクトの中でとった手法は、まさに「複眼の映像」アプローチなのだ。実際に分析をし改革上の具体案を書く新福と私には辛いが、クライアントに対する提言内容を濃くしていくためには最適な手法だ。ルートエフ・データムにとって、傑作を生みだす道でもある。

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