プロフェッショナル・チームのつくり方

この会社を立ちあげたころ、メンバーのひとり、30代の若者から「執行役員制度を導入しましょう」と提案を受けたことがある。即座に否決。その心は、プロフェッショナルなメンバー(当然、優秀なことが前提になる)を集めていくことに、そぐわないからだ。

どうしてそうなのか。執行役員制度の前提には、部があって課があって、当然ながらそこには部長がいて課長がいて、それを率いる執行役員がいるということになる。そこには明確な上下関係、レポートライン、そして評価権限が存在することになる。

こうした環境でプロフェッショナルとして、クライアントに最善を尽くすということが果たしてできるだろうか。どうしても部長は執行役員の顔色を見、課長は部長の顔色を見ることになる。活発な意見交換ができなくなる。創造的なアイディアは生まれないだろう。

そして、部長や課長の席の数は、部や課の数によって決まることになる。くだらない席取合戦がどうしても始まることになる。それぞれが協力的に見せながらも、実は水面下では牽制しあい、本当の意味でのコラボレーションは生まれない。ゆえにチームとしてのシナジーもほとんど起きない。あるとすれば、失敗してもお互いが傷つかないようなストーリーをつくり、傷口を舐めあうことぐらいだろうか。

それに、凡庸な人物がひとたび自分の上司になれば、その上司が異動しないかぎり、目を伏せて過ごす日々が続く。10年、20年勤め続けることが普通の会社なら、2~3年「忍」を決め込むこともできるだろう。しかし、プロフェッショナルなキャリアにとって2~3年は一般の会社の10年、20年のような長さだ。

ポストの数以上に優秀なメンバーを集め、ガチンコでディスカッションをして、創造的な価値をクライアントに提案するためには、組織にはラインをつくらないことが必須の条件になる。プロフェッショナルなチームづくりということになる。

一般的な会社であれば、少数の優れた人がいて、多くの普通の人がいる。それゆえに、ラインを作る方がまわしやすくなる。だから部や課をつくる。

けれど、一般的な会社でデータサイエンス部門をつくろうとすると、やっぱり部長がいて課長がいることになる。かりにデータサイエンス部門だけは、部長はいるけど、あとは横並びとしても、本当に機能するのだろうか。まわりの組織運営の影響を受けて、実際には序列が生まれ硬直化することが多いのではないだろうか。私の見る限り、ライン型の組織になれると上司として指示を出し部下が動くことや、部下も上司から指示が出て動くことに慣れていて、本音ではその方がずっと楽チンだということ。活性化しないのもよくわかる。

また、ラインのない組織は、優秀であればいくらでも昇進させることができる。全員マネジャーでも、ディレクターでも、パートナーでもいい。足の引きずりあいはなくなる。むしろ、ディレクターやパートナーが多ければ多いほど、優秀な人材が多いこの証左であり、価値のある提案をクライアントにできる。

でも上下関係をなくすということは、正しいこと、クライアントにとって価値のあることを言い続けないと、同僚からリスクペクトされないことになる。だから、ものすごく厳しい環境にあるということでもある。厳しい環境が、その人を育てていくということでもある。

弁護士事務所も優秀な人たちだけが集う組織である。だから、部や課などのラインはない。パートナーとアソシエートだけである。コンサルティング会社ももともとグローバルファームばかりだったから、パートナーとアソシエートによる組織運営だ。でも最近は日系のコンサルティング会社から名刺をもらうたびに役職を見て、がっかりしてしまう。安易な道を歩んでいるように見えるからだ。

ルートエフ・データムという会社にもラインはない。優秀な人たちに集まってもらいたいからだ。頻繁にブレストを繰り返している。そこでの主役は、純粋に新しい発見、新しいアイディアを見つけた人。結果としてクライアントに貢献した実績のある人。プロフェッショナル・ファームとは、そういうものであるべきだと思っている。

n.ohgo

 

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